雪かき症候群

 寒中お見舞い申し上げます

今年もよろしくお願いします。

 明けましておめでとうございます。

本年も当院と当ブログをご愛顧の程宜しくお願い申し上げます。

診療開始は1月4日(水)午前8時半からです。



足の甲の痛み

JUGEMテーマ:健康

七十代 男性

 二日前から両足背(足の甲)が痛くて歩くのが辛いと治療にみえました。思い当たることは何もないと言います。足の甲を押すと痛いところが数カ所ある以外腫れも無く、原因がよく分かりませんでした。

 足の指の間に鍼を刺してみましたが、三日後の時点で痛みは変わらなかったので、足底を支えるテーピングを追加したら歩行痛が軽減しました。
 それから三日後来院したときには、足の甲が腫れて、圧痛も強くなっていました。そこで、アイシングを追加して足底のテーピングもなるだけ貼ったままにしてもらったところ、左足の痛みが減って右だけに絞られてきました。
 五回目に来院されたときに履き物によって痛みに違いが見られることに気がついたとのお話しでした。スリッパや、サンダル、長靴を履いたときは痛くなく歩けるが、短靴はダメだそうで、どうやら歩くときに靴によって足の甲が圧迫されて痛みが出ていたようでした。
 そこで足の指の間よりも足根骨の間(足の甲)にある圧痛に鍼を刺して低周波を流しアイシングをして、短靴を履かないようにお願いしました。その後は仕事の時は長靴を履くようにしていたら痛みが明らかに減ってきて、1週間後に見えたときには足の痛みがグッと減り、その日の治療翌日には痛みが消えたとのことでした。       


骨粗鬆症の長期経過

八十代 女性 

 七十代から腰痛を起こしては鍼灸治療で治してきた患者さんです。当初は働き過ぎによる腰痛でしたが、七十代半ばからは腰が曲がるための痛みになり、八十代に入ってからは骨が弱くなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による圧迫骨折(背骨が圧縮されるタイプの骨折)を何度か起こしました。病院で痛み止めが出るものの楽にならないので、いつも鍼治療を受けに来ます。この方の八十を超してからの腰痛治療の様子を紹介します。

 三日前から腰背痛が出ている。寝起きがつらいと治療に見えました。来院時は起きているのもやっとの状態でした。片麻痺で入院していたご主人が退院してくることになり、その世話ができるだろうかと心配されていました。三回治療したらトイレに立つのが楽になり、約一ヶ月の間に六回の治療で良くなりました。

 その一年半後、再び腰背痛で来院。やはり数日前から背中が痛く寝起きがつらいと言うことでした。ご主人のおむつ交換が負担になっていました。背骨を叩くと痛みが強く、圧迫骨折を起こしているようでした。ご本人はお嫁さんに負担をかけまいと、腰が痛くても動こうとするため、お嫁さんと私で動かないように説得しながらの治療でした。ほぼ毎日のように五回治療して寝起きの痛みも良くなり、その後間隔を開けながら五週間で十回治療して何でもできるところまで良くなりました。

 さらに三年後、一ヶ月前に尻もちをついたせいか最近腰痛が強まり動けなくなったと治療に見えました。背骨の二カ所に叩くと息が詰まるように痛い場所がありました。このときは治りが早く、二回の治療で痛みが大幅に減り、二週間で四回治療して治りました。   

 年をとったから治りが悪いと思われがちですが、同じように見える腰痛でも、原因によって治る速度が違ってきます。年をとったから治らないと決めつける必要はありません。治るものは治ります。

圧迫骨折による腰痛

 七十代 女性 

 一週間前押し入れに布団をしまった時に腰がぎくっと痛くなった。整形外科でレントゲンを撮り、「骨は異常ない。痛み止めと湿布で様子を見ろ」と言われたが、次第に痛みが強くなってきた。寝起きは太ももに両手をついて身体を支えながらやっと立つがすぐには歩けない。トイレや食事で起き上がるのが辛いと治療に見えました。元々骨粗鬆症でお薬はもらっていたそうですが、腰痛はなく何でも元気にやれていたそうです。      

 背骨を叩くと飛び上がる程痛がるところが二カ所ありました。病院では骨は何でもないと言ったようですが、この場合圧迫骨折があると判断した方が患者さんの実態に合っていました。        息子さんに送ってきてもらって三回治療したものの、通ってくるだけで症状が悪化するのと、患者さんが家族に気を使い始めて一人でタクシーで通うと言い出したので、往診することにしました。六週間で十一回往診して痛みも治まり、二十分ぐらいの道のりを歩いて通ってこられるまでに回復しました。             

 少し話はそれますが、整形外科医は、この方の場合「レントゲンで骨は大したことはない」と説明しました。しかし、実際には骨粗鬆症による軽度の圧迫骨折を起こしていました。そのために、痛みが取れないことに不安を覚え鍼灸院を受診したわけですが、こちらから正確な病態を告げ、自宅安静を保たせ、日常生活の注意事項を教え、往診しながら長くかかる治療期間中患者さんを励まし続けてようやく治癒に導きました。ここまでしないと腰痛をこじらせて困った事態になる可能性がありました。というのは、圧迫骨折の場合、厳重な安静を取っても、痛みが引くのにかなりの日数がかかるため、治療にはそれなりの覚悟が必要になります。           

 しかし、病態を軽く説明されてしまうと、説明と現実のギャップに患者も家族も混乱し、トラブルになります。大概患者さんは不安から「痛い痛い」とヒステリックに痛みを訴え、家族は甘えているのだろうとまともに取り合わなくなり関係がこじれます。場合によっては、寝たきりへの恐怖心から患者さんが無理をして、こじらせてしまうケースも多く見られます。さらに、こうしたやりとりで孤独と絶望を感じ、「死にたい」と口にすることもあるのです。 安易に「大したことはない」と説明を済ませてしまうことなく、正確な病態説明と高齢者の心理に配慮した治療がいかに大切かを医者にも分かって欲しいものです。  

変形した膝の痛み

九十代 女性   

 一ヶ月前から両膝が痛くて踏ん張れない。整形外科では膝の軟骨が減っていると言われ痛み止めをもらったが変わらない。と娘さんの手につかまってやっと治療室に入って来られました。十一月末のことでした。              

 膝は強いO脚(がに股)で特に右膝は外に大きく曲がり、腫れて熱もあり痛くて曲げられませんでした。左の膝はゴリゴリ音をたてながらも90度ぐらい曲がりました。本人はかなりの興奮状態でハーハーと荒い息をしながら「右膝に力が入らなくて歩けない」と訴え続け、パニック状態(混乱した状態)でした。               

 ご本人が寝たきりになる恐怖心から、歩く練習を続けたことでかえって膝痛を悪化させていました。こういう場合心理的サポートもしながら治療を進める必要があります。                

 まずは鍼が効くことを実感させてから大事なことの説得です。膝に鍼を打ってアイスノンで冷やし、さらに足と肘にあるツボに鍼をして膝の曲げ伸ばしを行わせると、先程まで全く曲げられなかった膝が曲がり始めました。十分ぐらいの間に時々膝の屈伸を繰り返し、次第にスムーズに動くようになると、患者さんは落ち着きを取り戻しました。               

 そこで、「早く治すためには私の言うとおりにしてくださいね。」と念を押し、膝を持続的にアイスノンで冷やすことと数日間の安静を指示しました。治療を終えて帰るときには来たときより歩きやすくなっていました。            

 二日後だいぶ歩けるようになっていましたが、本人は「いくら痛いと言っても家族は分かってくれない」と主張し、娘さんは「いくら説得しても分かってくれない」と返します。老人の心理を理解するのはなかなかに難しいことであり、不安を和らげてあげることもまた難しいことです。        

 その後五回の治療で膝の熱は減り、両膝90度まで曲がるようになったので、椅子に手をついて足踏みをするリハビリ法を指導しました。九診目には両膝が120度ぐらい曲がるようになり腫れもほとんど引きました。本人は痛いとしか言わないのですが、十二月の末には両杖歩行から杖なし歩行に挑戦するようになり、年明けに整形で膝に注射を打ってもらったら、一時痛みが取れたので、試しに片足立ちをしたらまた痛くなってしまいました。               


 一月中は我慢の治療とリハビリが続きました。二月に入って意欲が出てテレビを見るようになり、買い物に連れ出したら思うように歩けず、本人が怒り出したそうです。さらに三月いっぱい地道な治療が続き、本人はいつも「右膝に力が入らないので歩けない。歩かないでいると惚けてしまいそうだ。こんなに頑張っているのに良くならない」と嘆きながらも娘さんの指導に従ってリハビリを頑張りました。     

 さらに内股を締める運動を追加してからO脚が少し改善し、五月に入って散歩するようになり気持ちも上向いて積極的に運動するようになりました。六月半ばになると娘さんの手を握りながらも、すたすた歩くようになり散歩や手作業なども自らやるようになりました。それまで月五回ぐらいだった治療を月二回ぐらいに減らして現在も通院されています。              

 娘さんには一時どうなることかと心配したばあちゃんが元に戻ったと喜ばれました。      
JUGEMテーマ:健康

胸の痛み

九十代 女性   

 腰がたたまった様に曲がったおばあさんが息子さんに連れられて来院しました。腰と右のお乳の下が痛いと言います。問診を始めたら、ご本人が聞いてほしいことが山程あるらしく、まとまりがつかなかったので息子さんから話を聞いたところ、「三ヶ月前にベッドから落ちて腰椎の圧迫骨折を起こし二週間入院した。一ヶ月前に畑で後ろ向きに転んで四日間入院した。帰宅後一週間して右胸が痛くなり痛み止めをもらったが良くならない。立ち座りの際に腰も痛い。」と言うことでした。          
 

 腰から半分に折れたように曲がっていて、歩くのに頭が逆さになっている状態で、肋骨も骨盤の中に食い込んで身体を支えている形で、これでいったん背骨や肋骨を傷めてしまうと、簡単には痛みは取れないだろうなと言う印象を持ちました。               

 ところが背骨や肋骨に骨折があれば叩くと強い痛みがでるのに、それが無く、肋骨に軽い圧痛がみられるだけで、ご本人の不穏な興奮ばかりが目につく状況でした。  
 「おかしいなー。腰はそんなに悪くないし、胸の痛みの原因がはっきりしないぞ」と思いながら痛いところに鍼をして様子を見ることにしました。              
 

 ところがその六日後、胸の痛みがさらに強まってかかりつけの内科で診てもらったら、「年の割に元気だ。一ヶ月しても治らなければCTを撮りましょう」と慰められ、もらった湿布で皮膚が負けてしまったと胸を真っ赤にしていらっしゃいました。                   

 このときはじっとしていても胸の痛みが襲ってきて「痛い痛い!先生早く何とかして!」とパニック状態でした。痛みの様子から炎症があるのではないかと思い、胸を冷やしてみたら次第に痛みが落ち着いてきたのでそのまま横に寝させ、痛みを訴える肋骨と背骨の接合部に鍼をしたら痛みがだいぶ落ち着いてきました。            

 その間に、ご本人の話をじっくり伺ってその日の治療を終え、ベッドから待合室に向かう患者さんの姿を見て合点がいきました。右腕で杖をつくことで胸椎に負担がかかって起こる肋間神経痛だったようです。たたまった(....)腰を杖で伸ばして歩くので、腕と背中に強い負担がかかっていました。        

 そこで杖をつくのを止め、両腕を腰に当てるか手を膝の上に置いて歩くように指導したところ、一週間後には痛みが三割まで減っていました。その後三回治療して痛みは治まりました。          

 当初の興奮やパニックは自分の訴えを医者にきちんと聞いてもらえず、「検査では大して悪くないからそのうち治る。」式の対応で問題が解決しないために起こしていたもので、それが痛みを強めていたようでした。本人の話しに耳を傾け、日常生活動作に潜む原因を見つけ出したことで、不安や不信も収まり症状が良くなったようでした。
JUGEMテーマ:健康

なるほど!はり・灸講座大好評でした。

なるほど!はり・灸講座終了 今回も参加された方々には大変好評でした。 特に鍼と灸の実技では、帰り際に「あちこち軽くなりました。本当に効くんですね。」 と喜んで帰って行かれました。 鍼がなぜ何に効くかと言った話や、鍼灸の現状にまつわる疑問を解き明かすたびに、 「なるほど!なるほど!」と皆さんうなずいらっしゃいました。 次回はさらに洗練した話と実技で受講者を魅了したいと思います。
JUGEMテーマ:日記・一般

膝の痛み

77才女性  

 1週間前立ち上がったときに膝が痛くなった。はじめは左膝の内側だったのが、右も痛くなってきた。立ち座りや歩くのが痛いと治療に見えました。  

 左膝は水が溜まっており両膝の内側に強い圧痛がみられました。左のマクマレーテスト(膝の中の軟骨に負荷をかけるテスト)が擬陽性で半月板に少し負担がかかったようでした。  

 ご本人が冷えが原因でこうなったとおっしゃるので、腫れている膝をアイシングで冷やすことはせず、鍼灸治療のみで様子を見ました。また、横になって寝る際膝の内側同士が当たって痛そうなので、膝の間にバスタオルをたたんで入れるように指導しました。  

 1回の治療で歩くときの痛みが減り腫れも引きました。4日間で3回治療して治りました。
JUGEMテーマ:健康

医道の日本誌投稿原稿 2007年9月号

伝えたい心に残るこの症例 と題したテーマで業界紙に投稿した記事を一部手直しして掲載します。鍼灸界にたいして私が日頃思っていることを述べた内容です。


患者さんの役に立つ家庭医の能力とは何か        かとう鍼灸院 院長 加藤雅和  


 今回このコラムに執筆のチャンスを頂いて、鍼灸臨床に携わって25年の間に出会った沢山の患者さんや医療関係者との忘れえぬエピソードのなかから、何を選び何を伝えようか迷った。貴重な失敗談や教訓話はこれからも多くの方が書いてくださると思うので、私は少し視点を変えて、家庭医として鍼灸師に出来る事のひとつ、「何げない愁訴の原因を見つける事」が、患者さんにとってどれ程大きな助けになるかを症例を紹介しながら述べたいと思う。  

<専門医が重篤な疾患の除外ばかりに気を向けて、患者の観察を怠ったために8年もの間無駄な検査と治療を繰り返していた舌痛症の例>
 今から8年前、当時62歳の調理師をしている小太りの女性が、左の顔が痛いと訴えて治療に見えた。詳しく聞くと、左目の奥が痛く目が渋い。鼻筋の左側も痛い。口唇の内側と舌の先がピリピリすると言う。痛みには波があり、強い時は吐気もする。  
 

 そもそも初診時から8年前に左鼻と口の中が痛くなり出したのが始まりで、歯から苦味を感じたので歯科を受診して、歯の治療をしてもらっても痛みは変わらず、次に皮膚科で診てもらったら金属アレルギーだと診断され、歯に被せてある全ての金属を取り去ってもらったが症状は変わらず、以後、耳鼻科、内科、眼科を受診し原因が分からず、ペインクリニックでは三叉神経痛としてブロック注射を受けるも効果なく、山形、福島、宮城の名立たる大学病院の脳外科を回るも異常無しと診断されるだけでどんな治療も効果がなかった。ただ、何かに気をとられると紛れるのと、寝るとましになると言う。  

 目から鼻、口の中、舌先と痛い部位が広がっているので、どうしても三叉神経痛か何らかの脳内疾患を想定したくなるのだが、すでにそれは否定されているので、まずは凝っている左肩から解して様子を見ることにして治療を開始した。  

 最初は頸肩部の緊張したところと左合谷、崑崙に切皮置針をし、軽いマッサージを行ったら、少し痛みが少なかったと言うので、2診目は両肩の切皮置針に加えて左孔最、合谷のパルス1Hz10分を行ったところ、翌日にこれまでになく痛みが強くなって不安だと電話があった。  

 その後痛み止めを飲んで少し楽になったが、3診目は、2診と同じ治療に顔の赤外線照射を加えたら翌日は良かったものの、3日後には痛みが強まり、4診目はいつもの治療の後に残った凝りに置針を追加してみたものの効果は数日しか持たず、治療に行き詰ってしまった。  

 5診目に患者さんの顔をまじまじと観察すると、口の中で舌を動かして唇の裏をなめている様子が見て取れた。「もしかして鼻の痛みと口の痛みは別ではないか?」と思い立ち、鼻の痛みと口の痛みは同時に起こったのか改めて聞き直したら、何と発症日が違っていることが分かった。そうなると三叉神経痛や脳内疾患を疑うより、口の痛みは精神緊張から舌先で唇の内側をなめ続けているための舌痛症ではないかとようやく思いついた。  

 そこで時々口を開けて力を抜くように心がけ、頬をマッサージするように指示した所、6診目には「自分がいかに身を硬くしていたか分かった。症状がグッと楽になった。」と喜ばれた。8診目は「治ったみたいだ」と言い出し、9診で症状が消失したので治療を終了した。「私の8年間は何だったんでしょうね」という言葉を残していった。  

 今になって振り返れば、鍼治療の方向性は逆だったようだし、もっと早く舌痛症を疑ってもいいほどサインは沢山現れていたのだが、目や鼻の痛みと口の痛みをひとつのものと捉えた先入感が病気の本態を見つけ出すのを遅らせた。それでも、8年もの時間と治療費の浪費を私で止めた点は実質的に役に立つ仕事をしたと自負している。  

 検査を駆使して悪性疾患や希な病気を見つけ出すのは現代医学の得意な分野であるが、逆に、生命を脅かさず、手術を必要としない愁訴に対しては、それこそ我々鍼灸師がその受け皿となれると思っている。その理由を知ってもらうためにもう少し私の忘れられない症例を紹介する。  

<患者の性格から日常生活動作の癖を言い当てて治した例>
 当時56歳の測量事務所に勤める女性で、いつもは肩こりや手の痺れで来院する人が、ある日右足親指の痛みを訴えた。朝足をつくときが痛い。原因となるようなことは思い当たらないと言う。診ると母趾の中足指節関節に圧痛がある。ここに負担をかけるような動作をやったに違いない。  

 以前私自身が同じ症状で数ヶ月苦しんだ事があった。結局原因はお風呂で片膝立てになって子供の頭を洗ってやる時に足の親指に負担がかかって傷めたのを思い出した。お風呂場で身体を洗う時、風呂用椅子に腰掛ける人と、バスマットの上に片膝立てになる人がいる。女性の湯浴みの仕草としては後者は上品な形である。  

 この方も、とても上品な女性なので、もしかしてそのような姿勢で身体を洗う癖が無いかどうか訊ねてみたら、どうして分かるのかといぶかられた。しかし、私の指示どおり風呂用椅子を使うようにしたら親指の痛みは治ってしまった。  

 お風呂で身体を洗ったり、頭を洗っている時はそちらに気持ちが集中しているので、足の指に負担がかかっていることに気付かないことが多い。しかしこうした癖に気付けないままだと関節炎は慢性化し、ひいてはかつての私のように、それをかばって次々といろんなところを傷めてしまう。そうした一連の障害を未然に防ぐには患者さんも意識していない癖を見抜いてあげることが重要になる。しかし、患者さんの仕草や性格から身体を洗う格好を推量して原因を指摘するといったような事に真面目に取り組む医師がいるのだろうか?  

<あり得ない寝相が原因で痛みの引かなかった股関節痛>
 症例をもうひとつ、50代の歯科医師で右の腰下肢痛を訴えてきた。所見から腰よりも股関節に負担がかかってるように見えるのだが、思い当たる事は以前ターザンのまねをして蔓にぶら下がって遊んだ時に腰から落ちて尻餅をついたことぐらいしかないと言う。重篤な疾患が隠れているとは思えないので愁訴の出ている周囲の緊張を解しながら経過を見たが、決まって朝起きる時が一番痛みが強いと言う。  

 本人は尻餅の後遺症だと思い込んでおり、再三それが原因だと主張するために、どうしても私の目は腰に引かれがちになったのだが、いつも朝起きがけが悪いとなると、寝てる間に何か負担をかけていることになると思い、「どんな格好で寝ていますか?」と訪ねたら、「私は寝相が悪いんですよ。うつ伏せで、右足を腹の下に畳んで寝る癖があるんですよ」と言う答えが返ってきた。  

 何でそんな格好で寝るの?と言いたくなるのだが、それが癖なのだからしょうがない。右の股関節を屈曲したまま体重をかけて寝ているのだから朝股関節周りが痛くなるのは当然である。少し寝づらくても寝相を治すように指示したら治療の効果が上がって愁訴は無くなってしまった。 それまで何年も同じ姿勢で寝てきて何の問題も起こさなかったのに、何故?と患者さんは思いがちだが、身体の老化に伴い、それまでなんでもなかった寝相が大きな負担になってしまっていたと言うケースは少なくない。  

<夜間痛で目が覚めたり、朝起きがけに症状が強い場合必ずどうやって寝てるのかを問いただす必要がある>
  

 寝相だけに限らず、無意識で行う動作が痛みの原因になっている事は多い。それを見つけて指摘する。ただそれだけの事である。なにも鍼灸特有の効果で治すわけではない。しかし、これが患者さんの利益を守ることにつながる。  

<医療の無駄を省き日常臨床の質を高めるには鍼灸師こそが家庭医として活躍すべき>
 スポーツドクターやスポーツ鍼灸師にとって、選手の起こした障害から問題行動を類推する能力は非常に重要になるのは誰もが認めるところであろう。それは家庭医にとっても同じ事で、患者さんが起こした障害の原因を類推するにはスポーツとは比べ物にならないほど多岐に渡る人間の動作や習慣を熟知している必要が出てくる。症状から患者さんが気がつかない問題行動を言い当てるのはある種名人芸と言える。しかし、こうした名人芸をもった家庭医に誰もなろうとはしていない。医学の専門分化が進んだ今だからこそ、そうした家庭医が必要なのである。  

 ならばこそ我々鍼灸師が意図してそうした存在になるべきであると私は考えている。そんなに難しいことではない。人間に対する興味を持って色々と観察していけばおのずと身につくはずである。また、同業者間でまめな情報交換を行っていけば、そうした知識は飛躍的に向上するし、鍼灸師全体の能力を上げる事はたやすくなる。  

 私は日本の鍼灸界において行われている勉強会や学会、業界誌への投稿といった情報交換の場に、愁訴の原因となった問題行動を教えあうジャンルを創設する必要があると感じている。ヒヤリハット情報の交換と同じように、既にみんなが持っている情報を出し合うだけで、鍼灸師はとても役に立つ存在になれるのだとここに紹介した症例を通して私は伝えたい。
JUGEMテーマ:学問・学校

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